女性のうつ
女性は男性に比べてうつ病の発症率が高いと考えられています。女性のうつ病の有病率は男性の約2倍です。これは約10人に一人がうつ病の経験者と考えられます。
女性の場合は、ライフサイクルの中で月経の初来、結婚、出産などで生活が大きく変わることが多く、家事と育児の両立などからくる比較的女性に多いストレスなどがうつ病の発症を高くする一因と考えられます。
また、ライフイベント(思春期・妊娠・出産・更年期・閉経など)による女性ホルモン周期の急激な変化なども関係しています。女性ホルモン(エストロゲン)の変化によって、体調不良(頭痛、めまい、腹痛等)、気分の落ち込み、イライラしやすい、疲れやすい、気分の波が激しいなどの症状がみられます。そのことがうつ病のなりやすさのひとつの要因でもあります。
エストロゲンが急に減る産褥期(出産直後)、エストロゲンの分泌が減少する更年期に、うつ病の発症率は高くなります。
女性特有のうつ状態として、月経前不快気分障害(PMDD)、産後うつ病、更年期うつ病が挙げられます。
月経前不快気分障害(PMDD)
月経前不快気分障害の基本的特徴は、気分の不安定性、易怒性、不快気分、および不安が、月経周期における月経前期に繰り返し出現し、月経開始前後またはその直後に回復することです。他にも仕事、学校生活、友人関係における興味の減退、集中力の低下、倦怠感、易疲労感、食欲の激しい変化、過食、過眠または不眠が見られます。これらの症状は、行動的および身体的症状を伴うこともあります。症状は過去1年間のほとんどの月経周期で生じ、仕事または社会機能に好ましくない影響を与えています。(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版:DSM-5より)
月経のある女性の約5%にPMDDが見られます。
また月経前不快気分障害に比べて軽い症状のもので、社会生活機能を損なわない程度に生活できるものを月経前症候群といいます。
産後うつ病
産後2~3日、30~50%の方が、情緒不安定(笑ったかと思うと次には泣いている)になったり、不眠、抑うつ気分、不安感、注意散漫、イライラ感などの精神症状を経験します。これらの症状ピークは産後の5日目頃で、10 日目ぐらいまでには軽快してきます。これがマタニティーブルーで、胎盤からの女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少するなど生理的要因が強くかかわっていると考えられています。
マタニティーブルーの特徴は、とにかく短期間で症状が現れて消えてゆく(一過性の)こと。だから、無理に前向きにと思う必要はありません。そのままでいいのです。ただ、何となく悲しいことを、信頼できる人に伝えられるといいでしょう。身近な人にはかえって話しにくいかもしれません。そんな場合は、信頼できる助産師さんか医師に話してみるといいでしょう。
しかし、マタニティーブルーは産後10日以内に一過性であるのに対し、産後数週間から数ヶ月以内に気分が沈むようになり、周囲に対する興味や喜びが感じられないこと、不安、緊張、集中困難、不眠、必要以上に罪悪感を抱いて自分を責める、自分はまったく価値のない人間だと感じるなどの訴えがでてきて、2週間経っても改善しない場合や悪化傾向がみられる場合には産後うつ病が疑われます。実に10%近い産後女性が産後うつ病とも言われています。疲労、頭痛、食欲不振などの何らかの身体的な症状を伴うことも、通常のうつ病と同じです。
その他、以下のような点がないか注意することも大切です。
- 母親としての役割が果たせないと悩む
- 育児に自信がない
- 子どもの将来を過度に心配する
- 育児に神経質になる
- 夫に愛情を感じない
- 子どもがかわいく思えない
- 将来に対する希望がなくなる
- 育児を放棄する
昨今の家族成員の変化、社会環境の変化により昔と比べて、母親の育児に対する不安、負担は大きくなっています。1日中、密室で母子だけの生活環境などのストレスや相談できる人が身近にいないことが、産後うつ病の引き金であったり、幼児虐待などの問題ともかかわってきます。
治療
授乳中の母親にとって、なるべくであれば薬を飲みたくないと考えるのは当然です。
授乳に影響の少ない薬剤の選択を提案していきますが、病状によっては治療を優先するケースもあるかと思われます。
産後うつ病のスクリーニング法として、欧米で開発された「エジンバラ産後うつ病質問票」(EPDS)があります。日本語版が三重大学の岡野禎治先生らによって作成されております。下記参照。
エディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)日本語版
(参考)John, C. et al.“ エディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)日本語版”.産後うつ病ガイドブック:EPDS を活用するために.岡野ほか訳.東京、南山堂、2006(付録1)
■ご出産おめでとうございます。ご出産からいままでのあいだにどのようにお感じになったかをお知らせください。今日だけでなく、過去7日間にあなたが感じられたことに最も近い答えにアンダーラインを引いてください。必ず10項目に答えてください。
【質問1】笑うことができたし、物事のおかしい面もわかった。
(0)いつもと同様にできた | (1)あまりできなかった |
(2)明らかにできなかった | (3)まったくできなかった |
【質問2】物事を楽しみにして待った。
(0)いつもと同様にできた | (1)あまりできなかった |
(2)明らかにできなかった | (3)まったくできなかった |
【質問3】物事がうまくいかなかったとき,自分を不必要に責めた。
(0)いいえ、そうではなかった | (1)いいえ、あまりたびたびではない |
(2)はい、ときどきそうだった | (3)はい、たいていそうだった |
【質問4】はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配した。
(0)いいえ、そうではなかった | (1)ほとんどそうではなかった |
(2)はい、ときどきあった | (3)はい、しょっちゅうあった |
【質問5】はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた。
(0)いいえ、まったくなかった | (1)いいえ、めったになかった |
(2)はい、ときどきあった | (3)はい、しょっちゅうあった |
【質問6】することがたくさんあって大変だった。
(0)いいえ、普段通りに対処した | (1)いいえ、たいていうまく対処した |
(2)はい、いつものようにはうまく対処しなかった | (3)はい、たいてい対処できなかった |
【質問7】不幸せなので、眠りにくかった。
(0)いいえ、まったくなかった | (1)いいえ、あまりたびたびではなかった |
(2)はい、ときどきそうだった | (3)はい、ほとんどいつもそうだった |
【質問8】悲しくなったり、惨めになった。
(0)いいえ、まったくそうではなかった | (1)いいえ、あまりたびたびではなかった |
(2)はい、かなりしばしばそうだった | (3)はい、たいていそうだった |
【質問9】不幸せなので、泣けてきた。
(0)いい、まったくそうではなかった | (1)ほんのときどきあった |
(2)はい、かなりしばしばそうだった | (3)はい、たいていそうだった |
【質問10】自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた。
(0)まったくなかった | (1)めったになかった |
(2)ときどきそうだった | (3)はい、かなりしばしばそうだった |
各質問とも4段階の評価で、10項目を合計してください。質問表で9点以上(欧米では10~13点以上)の場合、産後うつ病の疑いと判断します。
その時は、早めに専門の医師(わからなければ出産した病院の医師)に相談するようにしてください。
更年期うつ病
閉経をはさんだ前後5年くらいまでの期間を「更年期」といい、この期間に起こる身心のトラブルを「更年期障害」といいます。更年期には、女性ホルモンの分泌が急激に減少します。これが、全身の臓器や代謝系に影響を及ぼし、さまざまな更年期症状が起こります。
身体症状として、頭痛、ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、発汗、手足のしびれ、便秘、めまい、肩こり、腰痛、動悸、胸焼け、冷え、頻尿などがあります。
また精神症状としては、不眠、憂鬱感、イライラする、集中力の低下、記憶力の低下、倦怠感、不安、意欲の低下などがあります。
これらの症状は、うつ病の症状と似ており、うつ病になっていても気づかれにくいことがあります。上記の心身の不調が長引くときはうつ病の可能性を考える必要があります。