高齢者のうつ病
高齢者(老年期)のうつ病は青壮年期のうつ病と比べて、異なる病像を呈する場合があります。高齢者では、典型的なうつ病の症状を示す人は1/3から 1/4しかいないと言われています。身体的訴えや認知障害を伴うことも多く、抑うつ気分が若年群に比較すると明らかでないことも稀ではありません。また大事な人を亡くした後に見られる死別反応や、認知症に伴う抑うつ状態などと鑑別が難しいこともあります。
また若年群に比べて、妄想を伴う例が高齢者では比較的多いといわれています。
そのほかにも高齢者のうつ病の特徴として、次のような点が指摘されています。 (厚労省資料.2009参照)
- 症状が揃っていないうつ病の頻度が高く見逃されすい。悲哀の訴えが少なく、気分低下やうつ思考が目立たない。
- 意欲や集中力の低下、精神運動遅延が目立つ。健康状態が悪く、気分の低下、認知機能障害、意欲低下が見られる患者ではうつを疑うべきである。
- 心気的な訴えが多い。記憶力の衰えに関する訴え(「物忘れが増えた」など)がうつ病を示唆する重要な症状である可能性がある。抑うつ気分と 記憶に関する主観的な訴えとは強く関連している。認知症外来を受診する患者の5人に1人はうつ病性障害であるといわれている。
- 軽症のうつ病は、身体的な不健康と関係があり、意欲・集中力の低下や認知機能の低下が見られることが多い。高齢者のうつ病は軽症に見えて中核的なうつ病に匹敵するような機能の低下が見られることが多く、中核的なうつ病に発展すること多い。 したがって、うつ病の症状が軽そうに見えるからといって軽視してはならない。
- 器質的原因、薬物起因性のうつ病は若年者より高齢者で多い。
- 脳血管性病変に関連する「血管性うつ病」の存在が考えられており、脳血管性障害の 患者はうつ病の可能性が高い。
- 不安症状がしばしば併存する。不安が前景にあると、背後にあるうつ病を見落としてしまうことがあるので注意が必要である。
身体疾患とうつ病の関係
身体疾患を抱えた高齢患者にうつ病が発生する危険因子は、他の年代とほぼ同様であるが、以下の点に特に注意が必要と思われます。若年群に比べて、身体疾患が重症であることが多い、身体疾患のために日常生活の制限が大きい、術後に合併症をきたしたケースも見られる、配偶者や家族から十分なサポートが得られないことなども考えられ、身体疾患とうつ病の合併が、それぞれの予後を悪くするように作用しあうという悪循環になりやすいです。身体疾患を合併したうつ病には、より慎重な対応が求められています。
治療
高齢者のうつ病の治療は、若年群と同じく基本的な治療方針が適応されます。しかし注意すべき点がいくつかあります。
若年群では短期間で一定の量まで投与量を増やし、治療効果が十分に現れるようにすべきですが、高齢者はこの点について慎重に考える必要があります。高齢者では、治療量と中毒量の間の幅が狭いことを考慮しておかなければなりません。すなわち、症状が改善しないからと漫然と投与量を増やすのは得策ではないことも多いと思われます。
また内科的疾患を合併していることが多く、他科から何種類かの薬物が処方されていることがしばしばあります。見落とされがちですが、そのような薬自体が抑うつ状態を引き起こしていることも少なくないこと、また向精神薬との相互作用が問題となる薬もあるので、今、使用している薬についても確実に確認する必要があります。